なんなん
堺本店 ことのは書店 なんなん

ウサギ年、A型、おとめ座。食べることが好きです。
小学生の頃、図書室は、ほっと息ができる場所だったし、今でも本が並んでいる場所に、なんとも言えない心地よさを感じます。
子育てをきっかけに絵本の世界にはまり、小学校図書館司書や読み聞かせボランティアをしてきましたが、「娘である自分」「母である自分」「妻である自分」など、自分の肩書きが誰かの何かであることに疑問や不安を持つようになった40代半ばから様々な仕事を経験し、50歳の転職が人生で大きな転換となりました。その後、縁あって「シェア型書店HONBAKO」の立上げに参加、店長として本のお仕事に戻って来ることになりました。HONBAKOでは、本、人を通して、人生を噛みしめています。

名刺代わりの10冊

  • ・求めない /加島祥造
  • ・ザガズー /クェンティン・ブレイク
  • ・100万回生きたねこ/佐野洋子
  • ・精霊の守人/上橋菜穂子
  • ・西の魔女が死んだ /梨木香歩
  • ・博士の愛した数式 /小川洋子
  • ・恋愛中毒 /山本文緒
  • ・傲慢と善良 /辻村深月
  • ・コンビニ人間 /村田 沙耶香
  • ・私の知る花 /町田そのこ

いまさらなのか、いまだからなのか

こちらの投稿は[あと31時間]、salonメンバー以外の方にもお読みいただけます。


以前、二重構造の圧倒的な世界観に魅了され、「いまさら本」として投稿した村上春樹さんの『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』。

その後40年たって、2023年に刊行された『街とその不確かな壁』。
凶器になりそうな660ページの本を手にとるには勇気が必要でしたが、 どうしても「いま」読んでみたくなった作品。

続編なのかと思っていましたが、1980年に発表されながら、著者が納得いかずに封印し続けてきた「リベンジ」ともいえる物語でした。

物語は、『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』の設定と同じく「現実」と「高い壁に囲まれた街」の2つの世界を往来する、三部構成で展開されます。
(ネタバレにならぬようざっくりと。)

第一部:17歳の「僕」が恋をし、消えた彼女が語る「高い壁に囲まれた街」へ足を踏み入れるまで。
第二部:現実世界へ戻った主人公が、福島の図書館長となり、不思議な老人や少年との出会う日常。
第三部:「街」と「現実」の境界線が揺らいで行くことで迎える結末。主人公はどこへ行くのか。

正直なところ、『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』 のような疾走感や没入感がなく、読了直後は、ずいぶん冗長的に感じました。

でも、あれほど評価の高い作品を、70代になった村上春樹さんが、(いまさら)なぜ書き直したのか。
その背景に思いを馳せると、少し見え方が変わってきました。

この作品は、当時は兼業作家 だった1980年に、文芸誌に発表した『街と、その不確かな壁』という中編小説が核になっています。が、その時は、どうしても納得がいかず、書き直すつもりで書籍化されませんでした

その後、専業作家としてステージアップし、エネルギーに充ち溢れていた1985年、この作品を『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』として2本立の構造で書き直して刊行。
当時36歳だった彼は、「いろんなことが勝手に進んでいく」と感じながらあの世界を作り上げ、多大な評価を得ました。

ところが、巻末のご本人の解説によると、作家として経験を積み、歳を重ねる中で、その傑作さえも「未完成」と感じるように。自分にとって、大切なテーマだからこそ、今の自分なら別の形で、より深く補完できるはず、としてこの作品を3年かけて執筆。

この本では、スリリングな対立は描かれていません。
その背景を考えると、(僭越ながら)70代の成熟した視線によるものなのかな、と感じたのです。

・「何でもない日常」の尊さ。
・大切な場所や役割を次世代に譲り渡す「継承」。
・現実か幻想か白黒つけない「曖昧さ(不確かさ)」の受容。

私自身が歳をとっていくことで大切だと感じるようになった変化を重ね合わせると、冗長的と感じた感覚が、腑に落ちたように思います。

歳をとり、経験を重ねることで、見えるものや感覚に変化が生じていく。

若いころの怒りや渇望の濃度。
歳を経て知る感謝の深さ、手に持つもの・持たないものの重み。

見える景色は変わっても、大切なことはちゃんと感じ取れるようになっていると信じたい。
芯にある思いは変わることはない。でも、壁は、固くも高くもなくていい。

そんなことを考えた、とりとめのない読了報告となりました。



『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』
『街とその不確かな壁』



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