やまさきせつこ
堺本店 ここすこ文庫 やまさきせつこ

堺本店で ここすこ文庫 の箱主をしています。おもにケアに関する本と趣味の本を置いています。
大阪府堺市で対人援助職のための相談所Big Beansの代表をしています。
長年、精神科で作業療法士として働いていました。まちの保健室的な活動がしたくて、HONBAKOのお店番で皆さんのちょっとした気がかりをお聞きするような活動を継続しています。
HONBAKOのお店番やビブリオトーク茶会(読書会)、ワークショップなどもしていますので、皆さんとリアルでもお会いしてお話できるのを楽しみにしてます。

名刺代わりの10冊

  • ✳︎ケアの本質 ミルトン・メイヤロフ
  • ✳︎精霊の守り人 上橋奈緒子
  • ✳︎世界の終わりとハードボイルドワンダーランド 村上春樹
  • ✳︎錦秋 宮本輝
  • ✳︎ラブレター 岩井俊二
  • ✳︎ラスト・クリスマス: 15歳・愛と生命のメモリー マリ ブラディ
  • ✳︎あなたの話はなぜ「通じない」のか 山田ズーニー
  • ✳︎援助者の援助 村田久行
  • ✳︎まずはケアの話から始めよう 山崎勢津子

ケアのバトン ~その8 もっと自由でいいのかも~

こちらの投稿は[あと25時間]、salonメンバー以外の方にもお読みいただけます。
「適切な接し方」を提示するなんてことは簡単にできないと感じます。でも、実際は「これこそが適切な連結の仕方である」という上空からの自信に満ちた声が、世界を通り抜けながら描かれ、これからも先に伸びゆく予定であったラインを、点と点との間を適切な言葉が輸送されるだけの硬直した連結器に変えてしまいます。そしてそれを望む人たちもいます。動きのない静止した連結器であれば、痛みも生まれないから。
ー「急に具合が悪くなる」 宮野真生子、磯野真穂
※1

 時々、正解のない問いを投げかけられることがあります。切羽詰まった質問から好奇心の込められた質問まで、さまざまなレンジ(範囲)からボールが飛んできます。ひとの心の動きや、誰かとの関係性、どう振る舞うべきかなどについて、医療従事者として、ケアの専門家としての見解を求められるのです。その時々で、誠実に答えようとしてきましたが、磯野さんの書かれていることを読んで、ふと立ち止まりました。 

★『適切な接し方』がリスクを生む?
 磯野さんはこの本の中で、オンライン新聞の『がん患者や家族の支え方』という記事を見て、昨今、散見される 専門家が説く『〇〇との接し方』への違和感を覚える と書いています。
 専門家がクライアントの相談を聞く時、そこには契約関係が存在します。一方で、身内や友人から相談を聞く時、そこに契約関係は存在しません。この後者のごくありふれたの関係の中に「カウンセリング」での関係性やロジックを持ち込むと、そこに疑似的な契約関係が出現するリスクがある、と磯野さんは言います。その結果、会話が種々の方向に展開されるスロットが生まれず、相手への気遣いや失敗への恐れから関係性の自由度が奪われてしまうのでは?と疑念を呈しています。
 この磯野さんの疑念の件を読んだ時、私の中にあるモヤモヤを言い当てられたような気がして、ドキッとしました。

 たとえば、うつ病を患っている人には『励ましの言葉』は良くない。「頑張れよ」、「あなたは出来る人なんだから」、「早く良くなってね」といった言葉がけが却って本人を追い込む とよく言われます。これは苦しんできた数多くのうつ病の人の経験から導かれた『接し方』であり、今は一般にもかなり浸透してきているように思います。
 けれど、こういったふつうの言葉がけが封じられたがゆえに コミュニケーションの自由さや遊びの部分が奪われて、『どう言葉をかけていいか分からない』、『言葉がけ一つで病状に影響を与えてしまうのはコワい』と感じる人が増えてしまい、周囲からの その『そっとしておく感じ』や『腫れ物に触らない感じ』がうつ病の人をかえって孤独にしていることも増えたように感じています。

★私たちはもっと自由で無責任でいいのかも
 よく考えてみると、これって実はハラスメント案件とか、コンプライアンス案件とかも同じ構造なんじゃないかなという風にも思えるんです。
 本来なら、ごく一部の、あるいは特定の範囲(業界や立場)にいる人たちの特定の関係性や条件下で言われていたようなことが、上空からまんべんなく降り注いてきて「これってハラスメントなんじゃないか?」とか「コンプラに抵触するのでは?」みたいに流布して、自由度が失われて、私たちの世界はどんどん窮屈になっている。
 ああ、そうか。私たちはもっと自由で無責任でいいのかも
 なんかふとそこに思い至って、私自身、少し呼吸が楽になったような気がしました。まあ、それはそれで少し乱暴な言い方なのかもしれませんが。

 窮屈と自由の間で揺れ動く
 責任と無責任の間で右往左往する


 二極のどちらかに固定されるのではなく、その間での可動性や柔軟性、ある種の感度を失わないようにいる というあたりがさしあたり健やかさを担保するということなのかもしれません。

 翻って、ケアの専門家として 今回、生まれたこの問いを自分に投げ続けたいと思っています。

誰かから投げられた『正解のない問い』のボールを投げ返す時の私は、磯野さんの言うところの「上空からの自信に満ちた声」になってはいないか。もっともらしいことを答えることで、相手の動きや可能性を奪ってはいないか。

 そして、答えそのものを返すことよりも、柔軟性やある種の感度を失わないでいることをサポートできるような そんなボールを返せたらいいなとも思うのです。

※1 急に具合が悪くなる:宮野真生子、磯野真穂 ,晶文社.2019
https://www.shobunsha.co.jp/?p=5493

※以前、この本をご紹介した記事はこちら 
ケアのバトン ~その6 旅は道連れ、世は情け~ https://x.gd/ywlJwp

コメント 3件

  1. ぼくも書店 まきたこういち 2026.02.06

    めちゃくちゃよくわかります。 僕自身、(仕事場では特に)「◯◯ハラ」を恐れ、近年必要以上に距離を気にしてるなぁって自覚があります。 「仕事をソツなく遂行する」というにはそれで事足りるんでしょうが、「本音を打ち明けあう」とか、「互いの在り方を探っていく」、「人生をいっしょに」みたいな場所には(過去と比較して)ほど遠くなってるよなぁって思います。 でもほんと、慣れれば楽でもあり、そうした自覚も薄まってきます。 窮屈と自由の間で揺れ動く 責任と無責任の間で右往左往する これって、僕と、僕の個人的なお客さんとの間柄では成立してるんですよね。「上の / 下の立場」で考えてみれば、それを許してくれてるのは相手であるように感じてきたけど、よく考えてみたらそれだけじゃない、僕もちゃんと相手のそれを受け入れてる(楽しんでる)なぁ、と。 養老孟司は言ったんですよね。「コンピュータが人間に似てくるんじゃない、人間がコンピュータに似てくるんだ」って。ほんとそう思います。自戒も含めて。

    返信
    1. ここすこ文庫 やまさきせつこ 2026.02.06

      コメントありがとうございます♪ ひとって、窮屈でも慣れるし、時に安心感があったりしますよね。 自由ですよ、と言われたら、とたんに心許ない(笑)。 だから自ら枠にハマろうとする傾向もあるんだと思います。でも、そこにハマり続けると、考える力とか、つながる力とかが低下しちゃって、いざ枠から出ようとしても足腰が立たない…みたいなことになっちゃいそうですよね。 AI時代になったからこそ、「ソツなく」の功罪について考えておく必要がありそうです。

      返信
  2. HoN de RuKo るこ 2026.02.06

    ここ数年、うつ病などを患っている友達への接し方について、ずっと悩んでいました。 私の言葉ひとつで、相手の病状やその後の行動に、良くない影響を与えてしまうんじゃないかと、過度に心配したり、こわくなったり。それで結局、何も言えなくなるのです。 特にLINEなど、文章だけのやりとの場合は、相手のテンションも分かりづらくて。絵文字ひとつにも気を遣い、無難な返事を返して、自分だけどんどん無口に…。 「窮屈と自由の間」「責任と無責任の間」をゆらゆら漂うぐらいの気持ちで、もっと自由にコミュニケーションとってもいいんですね。窮屈と責任のカチコチの箱から飛び出して、また新たな、しなやかな関係性を築いていけたらいいなと思いました。 やまさきさんの投稿を読んで、なんだか視界が少し明るくなったような気がしています✨☺️

    返信

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