やまさきせつこ
堺本店 ここすこ文庫 やまさきせつこ

堺本店で ここすこ文庫 の箱主をしています。おもにケアに関する本と趣味の本を置いています。
大阪府堺市で対人援助職のための相談所Big Beansの代表をしています。
長年、精神科で作業療法士として働いていました。まちの保健室的な活動がしたくて、HONBAKOのお店番で皆さんのちょっとした気がかりをお聞きするような活動を継続しています。
HONBAKOのお店番やビブリオトーク茶会(読書会)、ワークショップなどもしていますので、皆さんとリアルでもお会いしてお話できるのを楽しみにしてます。

名刺代わりの10冊

  • ✳︎ケアの本質 ミルトン・メイヤロフ
  • ✳︎精霊の守り人 上橋奈緒子
  • ✳︎世界の終わりとハードボイルドワンダーランド 村上春樹
  • ✳︎錦秋 宮本輝
  • ✳︎ラブレター 岩井俊二
  • ✳︎ラスト・クリスマス: 15歳・愛と生命のメモリー マリ ブラディ
  • ✳︎あなたの話はなぜ「通じない」のか 山田ズーニー
  • ✳︎援助者の援助 村田久行
  • ✳︎まずはケアの話から始めよう 山崎勢津子

天日干しシリーズ~その7 こころの奥のひだひだ~

こちらの投稿は[あと27時間]、salonメンバー以外の方にもお読みいただけます。
 店先でとても美しい本と出会いました。いわゆる一目ぼれ。箱主仲間のりつこさんがよく話してくれる作家ハン・ガンさんの書いた 大人のための童話で“手元に置いておきたくなるだろう一冊”になる予感がしました。

【涙の箱】

 昔、それほどではない昔、ある村にひとりの子どもが住んでいた。その子にも名前があったが、みんなは名前ではなく<涙つぼ>と呼んでいた。なぜ、涙つぼだったのか、まずはその話からしよう。
ー涙の箱 ハン・ガンー
※1

 冒頭からとても良い匂いのする、ワクワクする文章ですよね。詳しく書くと、これから読もうという人の邪魔になっちゃうので書けないんですけど、とても美しい一冊で、ていねいにかみしめて読みたい一冊です。

 それというのも、このお話の中には“たくさんの情景”が登場します。色だったり、光だったり、音だったり…そういう描写を読みながら情景を思い浮かべて、主人公たちとゆっくり歩を進めたくなるからです。

 この本のテーマはタイトルにもあるように“涙”です。涙って不思議なもので『泣いているところを見られたくない』、『周りを困らせたくない』という気持ちが先立って、『涙をどうにかしなきゃ』のほうに意識が向いてしまい、その涙がどういう涙かということを深く考えないものだなとあらためて感じました。

「わたしの涙にはぜんぶ理由があるの。いくらがんばっても説明できないだけなの。それに、ちっとも美しくない。いつも涙を流しているのがとても恥ずかしい」

 物語に出てくる子どもはそう言います。私も若い頃は自分の涙を持て余していました。でも涙って、無理に抑え込もうとしたり、とめようとしたりするだけでは、きっとどうしようもないんですよね。
 涙をなかったものにするのではなく、その涙を手のひらに載せて、つぶさに見る以外に、本当の意味で涙をとめることはできないのかもしれません。あるいはそうすることで、その涙をとめる必要があるのかさえも疑わしくなって、泣きたいだけ泣くことを自分にゆるせるようになるかもしれません。

 私が書き溜めている文章の中にも、いくつか「泣くこと」や「涙」をテーマにした詩があります。今日はその中から一つご紹介したいと思います。

こころの奥のひだひだ

泣きそうな夜だ
悲しいことなんて ひとつもないのに
こころの奥のひだひだが
かすかにふるえる 泣きそうな夜だ

夕焼けのグラデーションに ふるえ
冬の透明感に ふるえ
失った恋の記憶に ふるえ
自分の小ささに ふるえ
愛しいひとたちの奇跡に ふるえる

泣きそうな夜をうむ
こころの奥のひだひだ

それは そのまま
私が生きてるという証

(やまさきせつこ)



【手元に置いておきたい一冊】
 先日、HONBAKO北堀江店のInstagram投稿を目にしました。その投稿には何冊かの本の画像とともに【箱主さんの“大切すぎて並べられない一冊”】というフレーズが添えられていました。私にとって、今回、ご紹介したハン・ガンの「涙の箱」もその一冊になりそうだなと思います。

 でもこの間、HONBAKO salonに投稿された ぽんぽこ書店(なっちゃん)の『読了報告②~読んでよかった本のその後~』※2や『ばんび書店(ばんびさん)の「本と歩く人」』※3の記事を読んでいたら『手元に置いておきたくなる本ほど、手放さないといけないのかぁ』という気持ちにじんわりなってきてどうしようかなぁ、困ったなぁと(苦笑)。
 その一方で『手放すべき時が来たら、それと分かるだろう』と感じる気持ちもあって、今しばらくはこの本も手元に置いておこうかと思っています。

 長い間、読書はひとりでするものと思ってきましたが、箱主仲間さんから影響を受けて本を購入したり、salonで他の方の考えに触れたりしながら、読書体験や本を所有することについての考えも少しずつ変化してきています。それはずっとひとりで読書してきた私にとって、とても得難い体験であり、ありがたい経験なのです。

*天日干しシリーズ*
15年くらい前に書いていた詩やコラムのデータを掘り起こして、今の自分の気持ちや投稿にフィットするものをご紹介させていただくシリーズです。それこそ蔵から出してきて、天日干しするような感じで。

※1 涙の箱:ハン・ガン(作)/きむ・ふな(訳),評論社.2025 https://www.hyoronsha.co.jp/search/9784566024892/
※2 読了報告②~読んでよかった本のその後~:ぽんぽこ書店 https://x.gd/EJ1rJ
※3 本と歩く人:ばんび書店 https://x.gd/eTg4c

コメント 2件

  1. ぼくも書店 まきたこういち 2026.02.13

    小さい頃から泣き虫でした。 いまもすぐにうるっとして、まわりにポカンとされますw ある偉いひとに「牧田くん君ね、すぐに泣いちゃうのは心が弱い証拠だよ」と言われ、あーあかんなぁと思いはしましたが、早々にあきらめました。 堺本店のお店に置いた「本の木」に、やはりりつこさんが、おなじくハン・ガンさんの「涙の箱」って本をご紹介されていて、そこに 「美しい涙、悔しい涙、悲しみの涙 たくさん涙を流す人生でありますように…。」 そう書かれてあるのを見て、僕は救われたような気持ちになって、それを写真に撮り大切に保管しています。 大切にしたいと想えるものをわかりあえる仲間がいるって、ほんとうれしいですね。ありがたいです。

    返信
  2. ことのは書店 なんなん 2026.02.13

    北堀江のるこちゃんの本箱に並べられた、この本を 見た瞬間、掟破りを顧みず、思わずに手にしていました。(北堀江ではお客さんと言い訳をしてw) 表紙の美しさはもちろんのこと、私にとって「泣く」ということが、特別なことだったからです。 さまざまな「なみだ」には、ちゃんと意味があって、私たちを救ってくれていることに気づかせてくれた大切な1冊になりました。 私は、大切な本を、なかなか手放せず… せつこさんの言う「しかるべき時がくる」まで手元に置いておこうと思います。

    返信

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